外国語はあくまで手段!子どもをバイリンガルに育てるイマージョン教育とは?
イマージョン教育って?
イマージョン(immersion)とは、「浸る」ことです。
何に浸るのかというと、身につけたい言語(以下、目標言語)です。
その言語で、いろいろな教科を学び、その言葉の習得を目指すのがイマージョン教育です。
目標言語の習得は結果として付いてくるもので、第一目的ではありません。
すなわち、目標言語を学習の道具として使い、各教科を学ぶことで、母語や学力の発達を妨げることなしに、目標言語を身につけさせようとする教育です。(Genesee 1987; Johnson & Swain 1996)。
イマージョン教育は、いつ頃、どこで、なぜ始まったの?
1960年代にカナダの東部で始まり、現在は世界各地の学校で導入されている長期の教育計画です。
実はカナダは主言語が地域によって異なっており、バンクーバーがあるカナダ西部では英語が、東部のモントリオールではフランス語が主に使われています。
実際に訪れたことがある方は、ジュースや洗剤に至るまで、あらゆる商品に英語とフランス語の表記が長々と細かい文字で書かれていて、驚いた人も多いと思います。
なぜ異なった言語が使われているかというと、実は、政治的・経済的に西部と東部はあまり仲が良くなかったのです。
そして、東部のケベック州が独立を目指し、1995年に国民投票をした結果、独立賛成が49.42%、独立反対が50.58%で、果たせなかったという経緯があります。
そこで、互いを尊敬し理解するための異文化受容のアプローチの一つとして、イマージョン教育が始まりました。
イマージョン教育の目的は?
イマージョン教育の目的には4つあり、
を目指します。
もう少し、詳しく説明しましょう。
筆者は、イマージョン教育が授業中でも家庭でも子どもの母語使用を認めた点を大変高く評価します。
それを、専門用語では加算的バイリンガリズムと言って、子どもの母語も目標言語も価値あるものとして尊重する姿勢です。
なぜなら、アメリカで行われてきたバイリンガル教育は、減算的バイリンガリズムで、学校だけでなく家庭でも、子どもたちの母語使用を認めず、英語が話される社会への同化傾向が強く、失敗に終わったからです。
その失敗をカナダでは繰り返さない方針を決めたのです。
イマージョン教育の形態
時期別分類
参加年齢によって、Early(早期)Immersion、Mid(中期) Immersion, Late(後期) Immersion に分けられます。
目標言語に接触する割合による分類
普通は幼稚園や小学校1年の早期段階で90%以上の時間を目標言語で行い、学年が上がると徐々に母語の割合を高めて(50%程度)部分イマージョンに移行していくパターンが多いようです。
部分イマージョンでは、算数、 理科、体育、美術など芸術科目が目標言語で指導される場合が多く、その理由は、授業中の学習活動に実践的・参加型の活動が多く、自然な言語習得が起こる状況が作りやすいという点が上げられます。
筆者の体験から:双方向イマージョン(two-way-immersion)のご紹介
イマージョン教育には、一方向と双方向のスタイルがあるのですが、ここで筆者が2006年に行った双方向イマージョン教育をご紹介します。
夏休みを利用して日本の高校2年生20名と、カナダ西部で日本語を勉強している高校生20名が30日間ホームステイをしながら、カナダのブリティッシュコロンビア州のオカナガン大学で双方向のイマージョンプログラムを体験しました。
生徒たちの母語は日本語(日本人高校生)と英語(カナダ人高校生)で、午前中は日本語だけで日本の文化などを学び討論しました。
昼食後は英語でカナダの歴史や文化を学びました。
興味深いことに、午前中のクラスは日本人の生徒が嬉々として自分の文化を手ぶり口ぶりでやさしい日本語を選んでカナダの高校生に伝え、ペアワークでは先生役(モデル役)になり、午後は、その逆で、カナダの高校生が主導して英語で自分の国について、文化について教えました。
授業が終わったら、みんなでハイキングをしたり、博物館に行ったり、スポーツを楽しんだりしました。
その後、日本人/カナダ人高校生がペアになってホームステイ先に帰宅しました。
わずか、3週間という短期間でしたが、間違いなく互いの距離が縮まり、最後の日は別れがたく涙・涙でした。
指導者として、筆者はこの双方向イマージョン教育方法が効果的な言語学習・文化学習手法であり、長期的な成果を促進することを確信しました。
残念ながら、この双方向イマージョンプログラムを行っている日本の学校は見当たりません。
さいごに
アメリカの外国語教育学者のKrashen は「イマージョ ンほど成功したプログラムは存在しない」と述べています。
アメリカでのバイリンガル教育は、同化主義の色合いが濃く、反面教師としての位置づけにすべきでしょう。
なぜなら、アメリカはEnglish Only政策のもとで、子どもたちの母語教育を重要視していません。
一方、イマージョン教育は、1960 年代に、カナダのケベック州で、英語が母語の子ども達に、フランス語を教える手段として導入されたのが始まりで、長年仲の悪かった西部と東部の人たちの互いの理解を深めるのに成果を上げてきました。
今では、アメリカの公立学校でイマージョン教育が急速に普及し、約 200 の学校で、スペイン語、フランス語、ドイツ語、中国語、オランダ語、 アラビア語、ロシア語、日本語などのイマージョン教育が行われています。
また、ヨーロッパ、アフリカ、アジアなどでも広がっています。 日本国内では、静岡県沼津市の加藤学園が、1992 年にはじめて英語イマージョン教育をスタートさせたことは別記事でお伝えしました。
その他、現在では、ぐんま国際アカデミー、 西武学園文理小学校、佼成学園女子中学校、立命館宇治高等学校等などで、イマージョン・ プログラムが実施されています。
昨今、日本には日本語を母語としない子どもたちが多く来日し、日本語教育が課題になっています。同化主義に陥らないよう、健やかな日本語習得と母語保持の方向に行ってほしいと願ってやみません。