何歳ごろから“人の気持ち”を考えられる?研究結果から見える共感・協調性の育まれ方
「パーソナリティ理論」とは?
国の精神医学者、ロバート・クロニンジャー氏は、神経伝達物質の個人差と人格の関連を「パーソナリティ理論」として提唱しました。
クロニンジャーは人間の人格を7つの要素に分けて説明しています。
遺伝的な要因が深く関与している4つの「気質因子」と、環境の影響が大きいとされる3つの「性格因子」から成り、計7つの因子によって個性や人格が造られているという考え方です。
4つの「気質因子」
3つの「性格因子」
4歳を過ぎると協調性・共感性が急激に伸びる?
菅原教授の研究によると、2~6歳にかけて、共感・協調性が大きく増加しました。
特に、4歳以降、得点が急激に伸びています。 これは、発達心理学で「心の理論」(後述)といわれる現象で、子どもは4歳頃から他の人にも気持ちがあるのだという共感・協調性が急速に高まると言われています。
菅原教授は、複数の同じ子どもの変化についても縦断的に測定を行った結果、2~6歳における個人のパーソナリティは、ほぼ安定しているという結果を得ました。
人の心を想像する力“心の理論”とは?
「心の理論」とは、自分以外の他人の心を想像でき、類推して理解する能力のことです。
子どもは4歳頃に他者の心の存在を前提として、他者の行動を考えられるようになるといわれています。
心の理論が発達していないと、どうなるのか気になりますね。
心の理論が未発達であると、他者の立場に立って物事を考えることができなかったり、自分のすることや言うことが他者にどう受けとめられるかも想像したりすることができません。
そのため、他人とうまく関わることができず、集団生活の場面で適切な行動がとれなかったり、対人関係や社会生活に支障をきたしたりしてしまいます。
次に、他人の気持ちを理解する能力を計る実験があるのでご紹介しましょう。
「サリーとアン課題」など、いくつかあるのですが、その一つに「マキシ課題」があります。
位置移動課題と呼ばれるものですが、たとえば、4歳児は誰かが物を探しているとき、それがどこにあると考えているかによって探す場所が変わることがわかると言います。
心の理論は、生まれながらに備わっているのではなく、生まれた後の成長の過程で獲得していく能力です。
では、マキシ課題(位置移動課題)を見てみましょう。
マキシ課題では、まず、以下の状況が被験者(子ども)に提示されます。
その後、実験者が被験者に対して、「マキシは、チョコレートを取り出すためにどこを探すかな?」と質問します。
3歳の子どもの多くは「実際にチョコレートが入っている、すなわち、母親がチョコレートをしまった戸棚」と答えます。
しかし、4歳から5歳の子どもは「青い戸棚」と答えることができます。
課題に正答できるようになるのが4歳後半から5歳頃であることから、4歳が心の理論の始まりだと考えられています。
社会的情動スキル(Social&Emotional Skill)とは?
社会情動的スキルとは、(a) 一貫した思考・感情・行動のパターンに現れるもの、(b) 学校教育や日々の学習によって発達するもの、(c) その人の社会・経済的成果に大きな影響を与えるもの
具体的に言うと、協調性や共感性、情動を制御する力、忍耐力などが社会情動的スキルです。
社会的情動スキルは非認知能力スキルと置き換えることもできます。詳細は別記事をご参照ください。
社会情動的スキルの発達を阻害する要因に関しては、発達心理学分野で様々な研究が進められていて、貧困・低所得や、両親の精神障害や不和、DVや虐待など、不適切な養育、劣悪な学校環境などが考えられます。
その環境に子どもがいったん埋め込まれてしまうと、自力で脱出することは大変難しいのが現状です。
中でも、貧困は問題視されています。
新型コロナウイルス蔓延の今、貧困層の子どもは子ども食堂なども閉鎖になったところも多く、家庭でのネット環境も整っていないなどの理由で、オンライン学習も程遠く、学習環境の悪い状態が続いています。
菅原教授は12年間にわたって、約600世帯の親子(0歳から小学6年生)を対象に調査を行った結果、貧困家庭の親、特に母親のペアレンティングの質の低下が、子どもの小学3年生時の成績にも影響を及ぼすことが分かりました。
また、3年生の成績不振は、高学年になってからは学校不適応や抑うつ感につながることわかったと言います。
そのため、貧困家庭に対しては、どのくらいペアレンティングが劣化しているかに目を向ける必要があると訴えています。
今、経済的に恵まれていた層の子どもたちも、決して良い環境にいるとは言えません。
親の仕事がなくなったり、いらついたり、親のメンタルヘルスが極度に悪化しています。
いつ何時、貧困層になっても不思議ではない状態です。
さいごに
パーソナリティ理論、心の理論、社会情動スキルと、続けざまに専門用語が出てきて、ためらってしまった読者もおられることでしょう。
この記事では、できるだけわかりやすく解説してきました。
他者の心を理解する力は、対人関係を良好に保ったり、社会生活を送ったりする上で欠かせない能力の一つですよね。
その力は、赤ちゃんの頃から心を持つ存在として対応してもらってきた子と、どんな気持ちかをあまり読み取ってもらえなかった子とでは差が見られ、養育者のサポートが幼児期に重要です。
筆者が一番言いたかったことは、まさにそのことなのです。
子どもが生まれもった気質を環境に適応させていく調整力を育むためには、温かい養育態度が大切で、それを受けて育った子どもは、粘り強さに優れているケースが多く見られたという研究結果や、貧困から生じるペアレンティングの低下が子どもの発達に影響を与えるという指摘には、養育環境の大切さをあらためて教えられました。