日本の幼児教育の問題点とは?日本の幼児教育の現状と世界との比較
幼児教育とは?
そもそも幼児教育とはどのようなものなのでしょうか?
幼児へ対する教育の総称
幼児教育とは、その名の通り幼児期の子どもを対象に行う教育のことを指します。幼稚園や保育園などで行われる教育だけでなく、家庭や地域による教育もすべてひっくるめて幼児教育とされています。
幼児期は子どもの人格形成の基礎が育まれる大切な時期といわれ、幼児教育を通して子どもの生きる力の土台を育んでいけることでしょう。
早期教育との違い
幼児教育は早期教育と混同されてしまうこともありますが、似ているようでその目的は大きく異なります。幼児教育では人格形成や学習の基盤を作ることが目的とされていますが、早期教育では知識や運動など専門的な技術を身に付けることを目指すのだとか。
日本の幼児教育の現状と問題点
近年の少子化や核家族化などの影響により、日本の子育て環境は昔と比べて大きく変化したといいます。そもそも幼児教育は、園と家庭・地域が総合的に行うものとされていますが、現代では家庭と地域の教育の質の低下が問題視されています。
ここからは、そんな日本の幼児教育の現状とそれによる問題点をご紹介します。
家庭の教育の質の低下
女性の社会進出が進んだことにより共働き家庭が増加傾向にありますが、それによって家庭で子どもの過ごす時間も少なくなっているといいます。それに伴い、幼稚園の預かり保育や保育園の利用も増え、親の育児を園が担っている状態になっているケースも珍しくないのだとか。
幼児期にママやパパからたっぷりと愛情を受け、親子の信頼関係を築くことは、子どもの社会性を育むうえで重要だとされています。そのため、園で過ごす時間が長くなることで子どもの情緒の発達に影響が出る可能性を指摘する声もあがっているそうです。
共働き家庭などの場合は、なかなか時間を作るのが難しいかもしれませんが、短時間でもこまめに子どもとコミュニケーションをとる時間を設け、愛情を伝えたいものですね。
地域の教育の質の低下
地域の子どもの数の減少やゲームなどの室内で遊べるおもちゃの普及により、近年では近所の子どもたちが集まって遊ぶことも少なくなっているといいます。それにともない地域のつながりも希薄になっているのだとか。
昔の日本では地域全体で子どもを育てている認識が強く、子育ての不安を相談したり、手助けをしてもらったりすることも多かったといいます。しかし最近では、近所の子どもに声をかけることも「不審者だと思われるのでは」と躊躇してしまう人も少なくないでしょう。
そうして子どもが地域の人と関わる機会が減ることで、社会性などが身につきづらくなっているのかもしれません。また「孤育て」という言葉も広まっているように、孤立した状態で育児を行っている家庭が増えていることも幼児教育の問題点のひとつといえるでしょう。
家庭・地域・園の孤立化
幼児教育は家庭・地域・園が連携して行うのが望ましいといわれていますが、現代日本ではそれぞれが孤立化している傾向があるといいます。これらの教育現場が協力して子育てを行う環境を整えることが日本の幼児教育では求められているのかもしれません。
日本の幼児教育と世界の比較
日本の幼児教育は、世界と比べるとどうなのでしょうか?ここからはOECDの「国際幼児教育・保育従事者調査2018報告書」の結果も参考にしながら、日本の幼児教育の実態や課題をご紹介します。
ちなみにOECDとは経済協力開発機構のことで、2022年現在38ヶ国が加盟しています。今回ご紹介する調査には、このOECD加盟国のうち日本・チリ・デンマーク・ドイツ・イスラエル・アイスランド・韓国・ノルウェー・トルコの計9ヶ国が参加しています。
保育士の最終学歴
日本では保育士になるために、学歴は求められません。保育士養成校の卒業あるいは保育士試験への合格という条件をクリアすれば、保育士になることができるといいます。その影響か、日本の保育士のうち4年制大学卒業し学士という学位をもつ人の割合は、全体の2割弱となっているようです。
トルコでは9割程度、ドイツでは8割程度、ノルウェーでは7割程度の人が学士であることをふまえると、日本の保育士の学歴は世界と比べて低いことがわかるでしょう。しかし一方で、日本の保育士のうち、短期大学や専門学校、および大学を卒業している人の割合はおよそ99%と最も高い水準になっています。
保育士の評価と仕事への満足度
日本の保育士は、子どもたちや保護者、社会からどのように評価されていると感じているのでしょうか?「子どもたちが自分を保育士として高く評価している」と感じている保育士は75.8%「保護者が自分を保育士として高く評価している」と感じている人は63%、そして「保育士は社会から高く評価されている」と感じている人は31.4%とどれも世界と比べて最も低い結果となっています。
また保育士の仕事全体へ満足している人の割合は世界的に高く、日本でも80.7%となっています。ただしほかの調査参加国と比較すると、日本の保育士の満足度は2番目に低い割合だといいます。
保育士不足
日本の保育士の仕事時間は参加国の中で一番長く、就業時間外のものも含め、週に50.4時間という結果になりました。また活動計画の準備や事務作業など、子どもと接しない仕事時間の割合も週に16.9時間と2番目に長いのだとか。
そんな業務量の多い保育士の仕事ですが、他業種と比較すると平均賃金は低いといわれています。それにともない保育士の給与に対する満足度は2割程度と、調査参加国と比較しても低くなっているのかもしれません。
そうした業務量の多さや賃金の低さ、社会的な評価の低さなどのさまざまな理由によって、保育士不足が問題となっているといいます。保育士の労働環境を改善する動きはありますが、現状ではまだ十分とはいえないようです。
さいごに
日本の幼児教育にはさまざまな問題点が挙げられていますが、よりよい幼児教育のためさまざまな取り組みが進められています。2019年10月から始まった「幼児教育・保育の無償化」や5歳児を対象とした幼保小をつなげるプログラム「幼児教育スタートプラン」の検討など、今後の動向や影響を見守っていきたいものですね。