子どもに暴力シーンを見せないほうがいい?調査・研究結果から分かる子どもへの影響
暴力シーンが幼児に良くないという科学的根拠
2012年、K. Browne教授がイギリス心理学会において、暴力シーンを多く見た子どもは攻撃的になる傾向がある、という結果を発表しました。
過去18年間に公開された暴力シーンを含む映画、テレビ番組、テレビゲームを取り上げ、子どもへの影響を調査・研究し、以下のような結果を公表しました。
低年齢の子どもたちほど、影響を受けやすく、観た直後に興奮状態が起こり、攻撃的な行動をしやすくなり、思考や感情に変化が起こりやすい傾向がある。
2014年、日本でも東京大学の教授たち3人が「暴力的なテレビゲームが脳に与える影響」という論文を発表しています。
東京大学大学院の総合文化研究科の玉宮 義之、松田 剛、開 一夫教授は、暴力シーンが表情認知(表情を識別する力)に与える長期的影響と、攻撃性への短期的影響を認知神経科学的な手法によって調査・研究しました。
実験参加者は、市販の暴力的、または非暴力的なテレビゲームのどちらかで約1ヶ月間(合計16時間)遊び、ゲームで遊ぶ前と遊んだ後1週間以内、さらに3ヶ月後の計3回、脳波測定と質問紙調査を実施しました。
脳波測定では、表情写真(怒り顔・恐怖顔・悲しみ顔・喜び顔・無表情)を見せた時の脳波を記録し、アンケートは、心理学で広く用いられている個人の攻撃特性に関するものを使用しました。
結果として、暴力的なテレビゲームで長時間遊ぶことが、成人の表情認知(他者の表情を判別する力)に関連する脳活動に長期的な影響を与えること、攻撃性に与える影響は短期的であることが明らかになりました。
それまでは、長時間遊んだときの影響や、その影響の持続期間については明らかになっていなかったのですが、その研究では、表情認知に関する脳波の計測と、攻撃性に関するアンケートを大人の男性・女性を対象に行った結果、表情の中でも怒り顔の認知に関する脳活動に遅延が見られ、怒り顔の認識に時間がかかることがわかり、ゲームで遊ぶことをやめても長期間にわたって持続することが分かりました。
一方で、アンケートによって測定した攻撃性については、テレビゲームの影響は短期的なものであり、男性においてのみ見られたと言います。
「ヒーローもの」の戦いはいいの?
最近はテレビでもゲームでも、かなりリアルな戦闘シーンがあります。それを見た幼児には仮想と現実の区別がつきません。
アメリカの小児科アカデミーは、テレビやゲームで暴力シーンを見ている子どもは、不安や悪夢にうなされることも多いと言います。
筆者が懸念するのは、暴力シーンを多く見た子どもが、「暴力で問題を解決できる」と学習することの弊害です。
幼児はニュースで実際に起こっている事件や事故と、画面の中の戦闘シーンの区別ができません。
暴力シーンをよく見ている子は、攻撃的になり、怒りの感情を持ちやすいことも報告されています。
暴力シーンを見た子どもは、気に入らないことがあったり、腹が立った時には、相手を殴ったり蹴ったりすればいいと思ってしまうかもしれません。
実際に家庭内でDVが行われている場合、それを見た幼児は暴力で物事が解決できるということをリアルに学んでしまいます。
そのような環境で育った子どもは、50%の確率で大人になったとき、自分自身も暴力で解決する手段を選んでしまうという世代間連鎖を示すと言われます。
アンパンマンのアンパンチは暴力か?
子どもたちが大好きなアンパンマン。大人気のアニメ「アンパンマン」は、主人公のアンパンマンが、悪さをするバイキンマンを「アンパンチ」でやっつけます。
アンパンチでバイキンマンをやっつけるという話の流れが、「暴力で物事を解決すること」につながるのでしょうか?読者の皆さんは、どう考えますか?
乳幼児はテレビに限らず、見たものを模倣し学習していきます。テレビのキャラクターの言葉・行動だけでなく、身近にいるお父さんやお母さんの言葉・行動・言動、などもすべて含まれます。
異論もあるでしょうが、筆者はアンパンマンが「アンパンチ」でバイキンマンをやっつける描写は、乳幼児に悪影響を与える可能性があるのではないかと思います。
アンパンマンを好きであれば好きであるほど、幼児は主人公を自己同一視しやすく、影響を受けやすいのではないでしょうか。
暴力が問題解決のための有効な手段だと学習してしまうことは研究で明らかになっています。
メディアの暴力シーンに関する実験研究で、復讐や悪漢を倒すなど暴力が正当化された映像を視聴した場合、『暴力が社会的に許容される』と学習することになり、暴力を学習しやすいことがわかっています。
でも、アンパンマンには、バイキンマンをやっつけるシーン以外にもたくさんのシーンもありますよね。困っているキャラクターに声をかけて話を聞いてあげたり、慰めてあげたりするシーンも多くあります。
きっと、子どもたちはそんなアンパンマンが大好きなんでしょうね。そのようなシーンからは、困った人を助けたり、やさしく接することもアンパンマンから同時に学んでいると思います。親としては介入すべきか否か、悩ましいところです。
このように、暴力をふるう人物が魅力的である場合が厄介です。ふるわれた暴力が賞賛されたり、罰せられたりせず正当化される場合など、その影響力が強くなるといわれているからです。
さいごに
青少年による凶悪犯罪などとの関係から、暴力的なテレビゲームの悪影響に対する社会的関心がとても高くなっています。
近年、テレビゲームの遊び方は多様化していて、ゲーム専用機ばかりでなく、スマートフォンやタブレットでも遊ぶことができます。
休校中、読者の皆さんのご家庭でも、戦闘シーンなどの音や画面がリビングにあふれたのではないでしょうか?
テレビゲームの暴力描写・内容にも幅があり、写実的なものからアニメのようなもの、現実性の高い行為から低い行為までさまざまです。
子どもに対して、周囲の人が「暴力は良くない」と介入をすることによって、悪影響を低くすることができるといわれています。
子どものテレビ視聴に親が介入することは、日本は先進国の中で非常に低いレベルにあることが、国際比較研究などから明らかです。
テレビゲームで遊んでいる年齢層も幅広く、それぞれの発達段階における影響についての検討が今後、必要になってきます。
複数の要因が互いに影響する過程については、今のところ不明な点が多いため、今後のさらなる研究が期待されます。