「男性保育士」への誤解をなくそう
男性保育士の現状
実際には、まだ男性保育士が少ないのが現状です。保育士の人数は、「平成30年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)によると、女性が21万6220人、男性が1万3400人です。男性保育士は全体の5.8%という少数派です。
海外の事情はどうなのでしょうか? 比較的男性保育士が多い国は、デンマーク、カナダ、メキシコなどですが、その割合は15~17%程度です。
男性の育児参加率が高いと言われている北欧の国やアメリカでも、3~5%程度のようです。
男性保育士が少ない理由で共通しているのは、待遇面や、保護者の理解のなさ等があります。
次に日本で男性保育士が生まれた歴史を探ってみましょう。
日本の保育士に関する歴史
現在でも保育士の多くが女性である理由は、その歴史をみるとよくわかります。
1891年、小学校令により、幼稚園で子どもを教える人は女性と定められ、1926年の幼稚園令に基づいて、幼稚園のほか、保育園の前身である簡易幼稚園、託児所などの保育施設でも、有資格者の女性や、資格がない女性が保育に従事していました。
1947年に学校教育法に基づいて、「幼稚園教諭は男女問わずになれる」と定められ、児童福祉法に基づいていて、保育園(保育所)での保育者は保母と呼ばれ、女性に限られた職業になりました。
男性も正式に資格を取れるようになったのは、1977年に児童福祉法が改正されてからです。当時もまだ正式な資格名は「保母」であり、男性保育者は「保父」と呼ばれました。
1986年、男女雇用機会均等法が施行され、その後、1999年、児童福祉法の改正で「保母」から「保育士」へと名称が変わり、それ以降は、男女問わず「保育士」という国家資格として保育に従事しています。
保護者の無理解について
読者の皆さんは、男性保育士が女児の着替えやオムツ替えを行うことについてどう思いますか?
国によっては、保育士になる前に前科を調べたり、トイレや着替えの介助だけでなく、子どもを膝の上に乗せたり、窓のない部屋に一緒にいるのも禁止するなど、虐待が起きないよう色々な対策をしているようです。
男性保育士に関して、2017年当時、千葉市長であった熊谷氏がTwitter上で発言したことから大議論になったので、覚えておられる方も多いでしょう。簡単にご説明しましょう。
2017年1月、千葉市の熊谷俊人市長がネット上で「男性保育士による女児の着替え」に関する問題提起をしました。
ツイッターでは、一部の女性ユーザーから、「男性保育士さんを警戒するのは仕方がない」
「性犯罪の加害者の九割が男性ということを考えたら、充分考慮する理由になる」「女児の親が女性の保育士を望むのは当然」
という反対意見が多く出ました。
こうした書き込みを受け、自らも女児を育てている熊谷市長は次のように訴えました。
娘を男性保育士に着替えさせたくないと言う人は、同様に息子を女性保育士に着替えさせるべきではないわけですが、そんな人は見たことがありません。社会が考慮するに足る理由無しに性による区別をすることは差別です。女性活躍を進める中だからこそ、真剣に日本社会が議論し、乗り越えるべき課題です
このように、世論を巻き込んで、大きな議論になりました。その背景には、男性保育士に対する、多くの誤解があると思います。 性犯罪の問題と男性保育士の問題が混同されているのは変ですね。
先ほども触れましたが、保育現場において性犯罪を防ぐための制度が設けられている国があります。イギリスでは保育士として働く前に前科を調べることが義務づけられています。
性犯罪歴チェックの仕組み
イギリスでは、子どもに直接関わる保育士やベビーシッターなどの採用時に、DBS(Disclosure and Barring Service)という政府部局が発行する犯罪歴証明書が必要です。
アメリカ、カナダ、オーストラリア、韓国にも同様のシステムがあります。
参考:JRIレビュー 2015 Vol.9, No.28 「保育士不足を考える ─幼児期の教育・保育の提供を担う人材供給の在り方─」
日本にも、児童福祉法に基づく養育里親及び養子縁組里親の登録にあたって、禁錮以上の刑に処せられた者、児童買春・児童虐待を行った者は里親になれません。
里親や養親の登録と同じように、保育士、ベビーシッター、学校教員にも拡大してほしいと願うのは筆者だけでしょうか?
男性すべてを危険とみなすのではなく、危険な人を排除する仕組みを作ることが早急に求められます。
千葉県の男性保育士活躍推進のための取り組み例
以下は、千葉県における男性保育士活躍推進のための取り組み内容です。
1.キャリア形成のための人事異動
将来、所長として保育所を管理・運営していくために、行政分野も含め多様な知識・経験を身につける必要があることから、保育所以外にも保育士を積極的に配属します。
2.性差に関わらない保育の実施
保育士としてのキャリア形成のため、男性保育士も女性保育士と同じように、こども の性別に関わらず、保育全般を行っていきます。 保護者には市の方針であることを説明し、理解を求めます。
3.保育所の設備整備
これまでほとんどの保育士が女性だったことから、男性用のトイレや更衣室、休憩室 などの設備がない保育所が多く残っています。 男性保育士、女性保育士お互いが気兼ねなくこれらの設備を利用できるよう、全ての市立保育所の調査を行い、トイレの男女完全分離化、更衣室、休憩室の整備を計画的に進めます。
4.男性保育士への理解の促進
子育て関係のイベントや保育所の行事などで、男性保育士の魅力を積極的にアピールします。また、保育士を目指している男子学生に対し、安心して就職できるよう、養成 施設に出向いて仕事の内容等を説明します。
5.男性も積極的に子育てを楽しめる環境づくり
男性が子育てをしていく上での悩みごと相談や、子育てに関するアドバイス、子ども とのあそび方の実演など、男性保育士による父親向けの出張育児講座 ・男性保育士と父親との座談会を実施します。
さいごに
日本では、まだ男性保育士の社会的な認知度が低いのが現状です。保育者として、男性か女性かではなく、専門性を持って保育に当たることが出来るか否かが、重要になってきます。
「性別云々という以前に、人間性と専門性で考えてほしい」と男性保育士の一人は述べていますがその通りですね。
男性保育士には園児たちの父親が接しやすいというメリットがあります。男児のトイレのサポートも同性の男性保育士の方がやりやすいですし、力仕事や防犯面、スポーツや遊びなど、男性保育士は女性保育士とは違った形や視点で子どもたちの保育にあたることができます。
今後、男性保育士に対して、少しでも誤解をなくし、保育という専門性の高い仕事に対しての処遇改善や理解が大切です。
最後にご紹介した千葉県の取り組みの中にも、犯罪歴証明書には一切触れていなかったことが残念ですが、男性保育士への理解を増すために、日本でも積極的に取り入れてほしいシステムではないでしょうか。