ペリー就学前プロジェクトは、就学前に教育を受けた子どもとそうでない子どもとで将来の収入や職業などに差があるのかを追究した研究のことです。ペリー小学校付属幼稚園で実験されたことからこの名がつきました。1962年時点の幼児を対象にしたアメリカの教育実験で、今も現状を追跡調査中。

この研究は、本来、良質な就学前教育は子どもたちの知的能力（IQ）を永続的に向上させるかどうかを追求することが目的でした。実際は顕著なIQの上昇はみられず。しかし、追跡調査をおこなううちにIQ以外の幸福度の点で差が出始めという興味深い結果が提示されています。

この研究は低所得層の家庭で育つ3～4歳の子ども123人を対象に実施。IQ70〜85の学校教育が「難しい」と判定された未就学児を、質の高い幼児教育を実施したグループと、未実施のグループに分けて実験が行われました。就学前教育を実施するグループのみ、能動的な学習や計画性、振り返りを重視する教育をおこないます。 

プロジェクトでは、少人数制で1日2時間半の良質な幼児教育を実施。子どもの主体性を重視したハイスコープカリキュラムに基づく内容で進行します。

ハイスコープカリキュラムは、経済協力開発機構（OECD）が科学的に根拠を示した幼児教育カリキュラムの一種です。「アクティブラーニング」や「子どもが自の計画、実行、振り返り」に重きをおくのが特徴です。

また、週1回の教師による家庭訪問や、親対象グループミーティングも実施されました。

ペリー就学前プロジェクトの結果から、就学前教育を受けた子どもと受けていなかった子どもでは、学力や経済面、素行面などで差が生じることが分かりました。

具体的には、「14歳の時点で基礎学力を達成した子ども」は就学前教育を受けた子どもが49％、就学前教育を受けなかった子どもが15％で約3倍の数値になっています。また、「40歳で年収２万ドル以上の稼いだ子ども」では、就学前教育ありの子どもの場合60％、なしの子どもが40％でした。

その他、「5歳でIQ90以上の子ども」「留年･休学せず高校を卒業となった子ども」などの項目においても就学前教育を受けている幼児の方が高い数値となっています。

ペリー就学前プロジェクトの本来の目的であったIQの底上げに関する仮説の検証では、効果がみられなかったという結果に。しかし、就学前教育は非認知能力を養う点で効果的と結論付けています。

文部科学省は、非認知能力を「意欲や意志、自覚し見渡す力、人と協力する力等」と示しています。非認知能力（EQ）は「知識・技能、思考力」などとは異なり数値化できません。

満4～5歳の幼児期に大きく発達するのが特徴で、習得するには、子どもが目標達成を目指して根気強く取り組み、やり方を工夫したり、友達と協力したりすることが重要です。

ここからは、非認知能力の具体的な一例を紹介していきます。  

意欲や集中力

自分から進んで、ものごとに取り組んだり夢中になったりする力で、目標を達成するために欠かせません。うまくいかない時は、諦めずに課題に向き合い、子ども達自身で解決の糸口をみつける力となるでしょう。  

社会的能力

他者への思いやりや協調性のある言動ができる力をさします。幼稚園や小学校などの集団生活のなかで協力したり、相手の考えを尊重したりと、コミュニケーションに必要な能力です。  

ありのままの自分を好きになれる力

ありのままの自分を受け止め、自己肯定感をもてることも非認知能力のひとつ。ものごとを前向きにとらえて、努力をする原動力になります。

自己肯定感が高い子どもは、「好きなこと・やりたいこと」をみつけやすく、自分を信じてやり抜く力を持ちやすいでしょう。

セルフコントロールする力

感情のままに行動するのではなく、自分の気持ちと向き合い、次の行動にどうつなげていくかを考えられる力です。うまくいかないことに対して、気持ちの切り替えがスムーズになり困難を乗り越えるのに役立ちます。

ペリー就学前プロジェクトで実践された、アクティブラーニング。アクティブラーニングは子ども達が問題解決のために思考をめぐらせる学習方法のひとつで、主体性のある活動を通じ、深い学びを促すのが特徴です。

次は、自宅で実践可能な非認知能力を育めるアクティブラーニングを紹介します。

幼稚園や保育園であった出来事を子どもに話してもらいましょう。「今日はなにをしたの？」「今日はどういうことを頑張ったの？」などの質問を子どもにします。そうすると、「歌を歌った」「数字のお勉強を頑張った」などと返事が返ってくるでしょう。

ここで、会話を終わりにするのではなく、「どんな歌を歌ったの？」「どんな数字を今日は覚えたの？」など話を掘り下げていくのがポイントです。このように質問をどんどん掘り下げていくことで、子どもたちが自分の頭で考えたことを言語化していくスキルが伸びていきます。

この時、子どもが「分からない」と返事した場合は、「お話をもっと聞いてみたいからまた聞かせてね」とお父さん・お母さんに楽しい出来事を話したくなるような声掛けするといいでしょう。

絵本やテレビの内容を子どもに説明してもらうのもひとつの方法です。はじめは、子どもが返事に困る姿があるかもしれません。そんな時は親が「どんな人・動物・キャラクターがでてきた？」「登場人物はなにをしていたかな？」などの質問をし、話の糸口を与えながら話を聞き出してみましょう。

話す内容を整理して人に伝えるのは、子どもはもちろん大人でも難しいことです。ゆっくり継続的に取り組むことを意識することが大切です。

子どもの「分からない」に付き合い、親が一緒に考える姿勢も大事にしましょう。子どもが「これ分からないから教えて？」という疑問に対して、親が答えに戸惑うこともあるでしょう。

しかし、そこで「お父さん・お母さんも分からないよ」と返事するだけではなく、「一緒に調べてみようか」と疑問を解決するアクションを子どもと一緒に起こすのがおすすめです。子ども用の図鑑を使って調べたり、科学館にいって調べてみたりして子どもに「分かった！」という体験をさせてあげましょう。

親が子どもの行動を全て決めてしまっては、子どもの主体性を損ないかねません。そのため、日常生活での決定権を子どもにゆだねることも大切です。具体的には「今日のお洋服は長袖？半袖？」「何時になったらお風呂に入る？」など。子どもに決断させることで、判断力が身につきます。

また、その決定に対する理由も聞きだせるとなおいいでしょう。たとえば「今日は天気予報で寒くなるといっていたから長袖！」「このテレビが終わる時間になったらお風呂に入る」など。子ども自身で判断基準を定めたり、今までの経験を考慮して先のことを予想できたりする能力も鍛えることができますよ。

ここからは、実際にアクティブラーニングを実践している家庭の体験談をみていきましょう。  

我が家では寝る前のルーティーンとして、1日の出来事を順番に発表する時間を設けています。お布団に横になりながら、順番に幼稚園、保育園で楽しかったことなどを子どもに話してもらい、私自身も1日の出来事や気持ちを子どもたちに伝えます。 

この時1番目、2番目に話す順番をあらかじめ決めることで、順番を守り、子ども達が話したい気持ちをグッと我慢して人の話に耳を傾けるようになりました。 

「今日は〇〇ちゃんと遊んだ！」「今日の給食は〇〇で全部食べられた」など、楽しそうに子どもたちが話すのに対して、「楽しかった？」「どういう気持ちだった？」と質問を投げかけることもしばしば。兄弟間でも質問しあい、お互いの話に興味を持てているなと感じます。 

言語化する能力が育ち、どんどん言葉も増えて、思っていることを素直に伝えくれるのが私も嬉しいです。  

幼児教育の重要性を裏付けたペリー就学前プロジェクト。このプロジェクトで実施されたアクティブラーニングでは非認知能力が培われるとされています。

非認知能力を育むアクティブラーニングは家庭でも実践が可能で、チャレンジしやすいものばかり。日常のなかに気軽に取り入れて、子どもの非認知能力をぐんぐん育ててみましょう！ 

•  アデック知力育成教室｜親なら知っておきたいペリー就学前プロジェクトとは？非認知能力を鍛えよう！（https://adecc.jp/columns/ninchi777778412）  
• 文部科学省｜中央教育審議会 初等中等教育分科会 幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会―第２回会議までの主な意見等の整理―（https://www.mext.go.jp/content/20210901-mxt_youji-000017746_2.pdf） 
• embot WOW!｜非認知能力とは？幼児期から学童期に育てたい「人生を豊かにする力」
  （https://www.embot.jp/news/36501） 
• カオナビ人事用語集｜自己肯定感とは？ 高い人・低い人の特徴、低い原因、高める方法 - （https://www.kaonavi.jp/dictionary/jikokoteikan/） 
• ドラキッズ『まなびドア』｜「非認知能力」はどんな能力？幼児期におけるその具体例と育て方
  （https://dora-kids.shopro.co.jp/manabi-door/2020/07/post-11.html#toc1） 
• ベネッセ総合教育研究所｜教育改革のいま、「子どもの主体性をいかに育むか」【前編】非認知能力にみる主体性（https://benesse.jp/berd/feature/foresight/topics_5/activity01/page_3.html） 
• For your LIFE｜アクティブラーニングで子供を伸ばす！家庭でも実践したい教育
  （https://fumakilla.jp/foryourlife/85/） 
• 沼田晶弘の｢教えて、ぬまっち！｣みんなの教育技術｜子供の言語化能力を伸ばす３つの言葉とは？
  （https://kyoiku.sho.jp/118125/） 
•  内閣官房｜幼児教育の効果に関する代表的な研究成果（ペリー就学前計画）
  （https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/youji/dai1/siryou3-2.pdf） 
• 家庭教師のノーバス｜アメリカの幼児教育「ハイスコープカリキュラム」とは？  
  （https://www.nohvas.com/column/post/?c=202211185892） 
• HighScope｜ペリー幼稚園プロジェクト  （https://highscope.org/perry-preschool-project/） 
• 文部科学省｜教育課程企画特別部会 論点整理 補足資料 （https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/__icsFiles/afieldfile/2015/09/04/1361407_2_4.pdf） 
• HIFH SCOPE|The High/Scope Perry Preschool
  Study Through Age40
  （https://image.highscope.org/wp-content/uploads/2018/11/16053615/perry-preschool-summary-40.pdf）