指先トレーニングが算数力を伸ばす!指先の発達と算数力の関係
算数力とは?
まず、算数力とは何か、考えてみましょう。私たちがすぐ思いつく「計算」は算数力の一部でしかありません。
算数は「数字や図形を素材として思考力そのものを鍛える」教科であり、文部科学省は算数の領域を「数と計算」「図形」「測定」「変化と関係」「データの活用」の五つをあげています。
数や図形のセンスを基に、計算する力、読解力、発想力、試行錯誤する力、論理的に考える力、表現力という総合的な思考力が算数力だと言えます。
指先の発達と算数力の関係に関する研究
それでは、「算数力の向上」と「指先のトレーニング」は本当に関連性があるのでしょうか?ここでは3つの研究をご紹介いたします。
シェフィールド・ハラム大学の研究
Tim Jay 教授とJulie Betenson教授による論文、“Mathematics at Your Fingertips: Testing a Finger Training intervention to improve Quantitative skills(数学はお手の物;算数力を伸ばす指先トレーニング)”をみてみましょう。
6歳~7歳の子ども137名を対象に、指のトレーニングと数的スキル(カウントや区分け、並び替え等)との関係を検証しました。
子どもたちはイングランド南部の都市の3つの小学校から集められ、すべて平均的な規模の小学校よりも大きく、多様な民族的背景を持つ生徒がいる小学校です。
そして、次のようなテストを行いました。
・指の巧緻性テスト(指先トレーニング)
生徒は指を見ることができないように、机の上の箱の中に手を平らに置くように求められ、生徒はどの指を押されたか答えます。1対1で30回繰り返されました。テストは各生徒に対し同じセットが使用され、後で照合できるように音声を記録しました。
・算数力テスト(数ゲーム)
最初のページ(カウント)、 2ページ目(サイコロ)、 3 ページ目 (番号) 、4 ページ目 (順序)、最後のページ は2 ~3 の小さい数の組み合わせから、より大きな数を作ります。
・マグニチュード比較テスト
生徒は20種類のドット配列(1個から6個)のペアを1分間比較し、大きい方を当てます。
各ペアのドットの大きなセットをチェックするために1分を与えられました。
結果、指先遊びによるトレーニングは指の感覚を向上させ、数字ゲームは大小比較スキルを向上させましたが、単独では数的スキルに影響は示さず、両方のトレーニングで数字スコアが大幅にアップしたことが判りました。
そして、以下のような、大変興味深い結論を導き出しています。
5歳の時に測定された指の感覚(どの指を触られているかがしっかりと認知できるかどうか)は、3年後の数値能力を予測できる。すなわち、指の認知と数値能力が関係している理由は、脳の部位が近接しているからである。
この研究は、子どもたちの指が言葉や数の表現との間をつなぐ手段になること、そして子どもたちの発達理解に寄与することを証明する。
ルーヴァン・カトリック大学の研究
次に、Maria Gracia-Bafalluy教授とMarie-Pascale Noël教授による研究 ”Does finger training increase young children’s numerical performance? (指の訓練は幼児の数値的なパフォーマンスを向上させるか?)を見てみましょう。
47人の小学1年生を対象に、以下のように3つのグループに分けました。
結果、最初はCの器用な子どものグループが計算力、個数を認識する能力の両方で、最高点をとりました。
しかし、2か月後、Aの指先遊びでトレーニングしたグループが最高点を取るようになったということです。また、アラビア数字の処理が優れている傾向がありました。
結果から導き出せることは、子どもの指先は鍛えられること、そして、数学力を伸ばすのに有効であることです。
2019年、日本教育心理学会第 61回総会(広島大学)で発表された研究
四万十市立中村南小学校の喜多真明教諭と高知大学の野中陽一朗教授は、3歳~5歳の園児を対象に、巧緻性と計算能力の関係、性要因が両者の関係に及ぼす影響を検討しました。(幼児期における手指の巧緻性と計算能力の関係についての基礎研究)
対象児 は市公立保育所・幼稚園に所属する年少児 37 名 (男児 16 名,女児 21 名)、年中児 40 名 (男児 26 名,女児 14 名)、年長児 48 名(男児 27 名,女児 21 名)の計125名です。
「足し算課題」(6 問)、「具体物を活用した引き算課題」(4問) を個別に口頭で掲示し、回答を求めました。
線引き課題 巧緻性の一つの特徴である精巧さを測るため、制限時間 30 秒を設けて、線のはみ出し具合を測定しました。
すばやさを測るため、止め結び課題を制限時間 2 分 30 秒を設けて集団で実施し、個数の測定を行いました。
その結果、全体では止め結びと足し算 (r=.271, p<.01)、引き算(r=.227, p<.05)、計算課題 (r=.279, p<.01) で弱い相関が認められました。
男児は線引きと足し算 (r=-.270, p<.05) で弱い相関、女児では止め結びと足し算 (r=.362, p<.01) で弱い相関、引き算 (r=.483, p<.01)と計算課題 (r=.445,p<.01) で強い相関がみられました。
また、各年齢及び男女別に分けて相関分析を行ったところ、年少児では止め結びと足し算、年中児では足し算・引き算とも関連し、年長児で両者の関係が消滅しました。
性要因に関して年少児と年長児では、女児のほうが止め結びと計算能力の間に強く関連がみられ、年中児では男児のほうが止め結びと計算能力の間に強く関連がみられたと報告しました。
まとめると、計算能力 (年少児は足し算,年中児は加えて引き算) が巧緻性の一部である止め結びと関連すること、計算能力と巧緻性の関連は女児において顕著にみられることが明らかになりました。
さいごに
この記事では指先が発達している子どもの方が、足し算や引き算等の計算問題に対して多く、そして早く解くことができるという結果をご紹介しました。
指先の発達が算数力に強くかかわっていることに驚いた読者も多いのではないでしょうか?
今はたとえ不器用でも、幼少期からわずか30分間、週2回の指先トレーニングをするだけでも、2か月後には器用な子どもを超えられるということは、親として期待が持てますね。
指先を鍛える遊びには、知育玩具やカードゲームがありますが、身支度や食事の時間、料理などのお手伝いを通しても充分トレーニングできます。
もちろん、楽器の演奏も効果的です。筆者のおすすめは、ひもを穴に通したり、折り紙をしたり、虫を捕まえたり、ドングリを集めたり、粘土などの遊びを通していろいろな動きを習得させることです。
余談になりますが、筆者の母は100歳を超えた今でも創作糸てまりを作っています。そのため、頻繁に360度÷ Xなどの計算を頻繁にしています。手先が器用だから認知が衰えないというのは本当のようです。是非、参考にしてくださいね。
参考URL
- https://home.hiroshima-u.ac.jp/cspa/pdf/paper/gakubusei/2018/2018_25.pdf
- http://shura.shu.ac.uk/15671/13/Jay%20-%20mathematics%20at%20your%20fingertips%20%28VoR%29.pdf
- https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/feduc.2017.00022/full