幼児期から考えたいキャリア教育とは?教育概要や家庭でできる取り組みを紹介
キャリア教育とは何か?
平成23年文部科学省の中央教育審議会による教育答申では、「幼児期の教育から高等教育に至るまでの体型的なキャリア教育の推進」が、キャリア教育の課題として挙げられています。文部科学省はキャリア教育を「社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と定義しました。キャリア教育で目指すキャリアは、単なる進路選択や職業選択のための教育ではありません。幼児期から高等教育まで発達の段階に合わせて体系的に進められるものであり、さまざまな教育活動を通して生きるための基礎となる力を養うものです。
学童期においては、日々の集団活動や教科活動、職業体験などを通して、ルールの大切さやコミュニケーション、礼儀、責任感、連帯感などを学びます。人間関係を築き、自己理解や自己管理に努め、課題対応能力や将来のキャリアに向かって計画する力を養うことが目標とされているのです。よりよく生きるための教育と言えるキャリア教育には、幼児教育も含まれています。では幼児期のキャリア教育とはどのようなものなのでしょうか。
幼児期におけるキャリア教育とは?
キャリア教育と聞いても、幼児にはまだ理解できないのではないか、キャリアについて考えさせるのは早いのではないかと考える方もいるでしょう。実は幼児期のキャリア教育は、生きる力の土台を育む教育であり、進路や職業について考える教育とは異なっています。では詳しく見てみましょう。
文部科学省が掲げる幼児期のキャリア教育とは?
教育基本法第11条によると、幼児期は「生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なもの」とされています。幼児期は生活の中で興味関心に応じた体験を通して、豊かな心情、積極的に物事に関わる意欲、健全な生活を営む態度を身に付ける時期です。文部科学省はこれらを踏まえ、幼児期のキャリア教育では、「計画的に環境を構成し、遊びを中心とした生活を通して体験を重ねるように、一人一人に応じた総合的な指導を通して、自発的・主体的な活動を促すことが必要である」としています。この目標の達成には、高齢者や働く人々など、子どもが他者との交流や触れ合いを通して、人と関わることの楽しさや、人の役に立つ喜びを味わえる体験が重要です。
文部科学省|教育基本法
(https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/mext_00003.html )
各自治体がすすめる幼児期のキャリア教育とは?
自治体によっては幼児期のキャリア教育がどのようなものであるべきか、定めているところがあります。高知県では、就学前の幼児期は生きる力の基礎を培う時期としました。健康な心と体を育てることや、他者との関わりの中で自立心を育てることを大切にしています。広島県では、保育所・幼稚園、小学校、高等学校等が情報共有し連携を取りながら、子どもたち一人一人の発達課題に対する指導を行うこと、また学校と家庭、地域、産業界とのつながりを強化することを課題としました。教科教育のようにはっきりとしたカリキュラムがあるわけではないキャリア教育ですが、自治体ごとに目指す姿などが考えられているのです。
高知県|各発達段階におけるキャリア教育【就学前】
広島県|広島県におけるキャリア教育の充実に向けて(提言)「輝く大人をめざして」
(https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/235186.pdf )
幼稚園教育要領とキャリア教育の関係とは?
幼稚園での教育について定めた幼稚園教育要領には5領域(健康、人間関係、環境、言葉、表現)と呼ばれる、目指すべき教育の指針があります。また保育所には保育所保育指針とよばれる教育の指針があり、3歳以上の子どもに対しては幼稚園教育要領と整合性が図りながら規定されています。そのため保育所に関しても幼児教育の目指す姿は幼稚園教育要領と重なる部分が多いと言えるでしょう。
幼稚園教育要領における人間関係領域では、「他の人々と親しみ、支え合って生活するために、自立心を育て、人と関わる力を養う」とされています。環境の領域では「周囲の様々な環境に好奇心や探求心をもって関わり、それらを生活に取り入れていこうとする力を養う」と定義づけられています。これらはキャリア教育が目指す、人間関係形成・社会形成能力、自己理解・自己管理能力、課題対応能力、キャリアプランニング能力の4つの能力と関連する内容が多く、幼児教育の基本的な内容はキャリア教育が推進しているものと重なる部分が多いと言えるでしょう。
文部科学省|学習指導要領「生きる力」
(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/you/nerai.htm )
文部科学省|幼稚園教育要領と保育所保育指針の関係
(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/030/shiryo/06022009/005.htm )
キャリア教育の実践例とは?
ここからは、幼児教育の現場におけるキャリア教育の一例として、異年齢交流の実践を紹介します。2018年3月の一貫連携教育研究所紀要第4号の「幼保連携型認定こども園 教育・保育要領と「キャリア教育」」には、とある幼保連携型認定こども園の実例が紹介されています。この子ども園では、幼児期の保育や教育はキャリア教育そのものであるとされ、活動の一環として2歳児と4歳児の異年齢交流活動が行われました。またこの活動には0~2歳児の保育過程と3~5歳児の教育課程の連携に配慮するねらいが含まれています。
活動は6~7人の4歳児のグループごとに、2歳児の子どもを一人含めて進められました。クラスでの活動や、クッキング、お店屋さんごっこや、4歳児の生活発表会の練習を2歳児が見学する内容です。これらの活動を通して、4歳児は2歳児から頼りにされたり、役に立つ喜びを感じると同時に、2歳児が思い通りに動いてくれなかったり、泣いてしまったりすることを体験しました。相手がどんな気持ちなのか、どうしてあげたらいいのかを考えることは、キャリア教育で大切にされている「人と関わる力」につながります。また、2歳児は4歳児との関わりを通して「お兄ちゃんやお姉ちゃんたちはかっこいい」と感じられたようです。異年齢の教育が、キャリア教育における人と関わる力を育むのに役立つことがわかります。
家庭でできるキャリア教育とは?
キャリア教育は幼稚園や保育園、学校だけで行われるものではありません。家庭でも取り組めることがたくさんあります。ここからは家庭でできるキャリア教育について紹介します。
子どもが自ら選択する機会をつくること
キャリア教育では子どもが自ら物事に関わろうとする意欲が大切です。子どもが自ら「やりたい」「関わりたい」と思うためには、ふだんから自分の身の回りに関することを、自ら選ぶ体験が役に立つでしょう。例えば、その日に着る服を選ぶ、読んでもらいたい絵本を選ぶなど、些細なことでも構いません。自分が選んだことを受け入れてもらうことの積み重ねが、自信や意欲を生み出し、自ら行動する姿勢をつくるのです。ただし、子どもの選択を常に受け入れる必要はありません。真夏にセーターを着たいという子どもには、季節に合う服装があることを教えます。長い絵本をこどもが選んで、親が読んであげる余裕のないときは、半分だけ読もうねと約束します。子どもの選択は受け入れつつ、相手の気持ちや環境に応じたふるまいを教えることもキャリア教育なのです。
お手伝いをすること
お手伝いをすることも、キャリア教育や生きる力につながります。家庭にも食事の準備、お風呂掃除など仕事があります。子どもが役割に応じた仕事をこなすことで役に立つ喜びが味わえるでしょう。また、自分の役割を果たすことは、キャリア教育で言われている自己理解・自己管理能力、課題対応能力につながります。年齢を重ねるうちに、お手伝いしてもらう仕事の幅を広げるのもおすすめです。ご飯を食べるためには、お米を洗って炊飯器に入れスイッチを押し、炊き上がったら家族のお茶碗に盛って配膳する、一連の作業が必要です。これらをすべて子どもに任せることで、仕事にはさまざまな作業が伴うことが理解できるでしょう。これはそのまま、仕事に対するイメージにもつながります。ぜひ家庭でのお手伝いをキャリア教育のひとつとしてみましょう。
働くことについてイメージさせること
また、子どもと過ごす生活の中で、仕事や働くことに意識を向けてみるのもおすすめです。例えば、外出時には街にスーパーやコンビニ、パン屋やクリーニング店など、さまざまなお店があり、その中では多様な役割に応じてあらゆる人が働いていることを子どもと話し合います。また、バスや電車の運転手、レストランのコックさんやウエイター、ウエイトレスの方とのやりとりをするのもいいでしょう。世の中にはどんな仕事があるのか、どんな仕事がしてみたいか、考えるのもキャリア教育につながります。
さいごに
キャリア教育は、自分らしく生きるための教育です。親世代が経験してきたように偏差値に合わせて進学する、やみくもにいい成績を取るために勉強するだけでは、自分らしい人生を送ることは難しいかもしれません。またキャリア教育の定義に幼児期が含まれることは、幼児教育が子どもの将来につながる大切なものであることを示しています。子どもがよりよい未来を選べるように、ぜひ家庭でもキャリア教育を意識してみてください。
参考サイト
- 文部科学省|今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)(https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2011/02/01/1301878_1_1.pdf )
- 文部科学省|キャリア教育の推(https://www.mext.go.jp/apollon/mod/pdf/mext_propulsion_20180223.pdf )
- 文部科学省|教育基本法(https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/mext_00003.html#:~:text=%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B8%80%E6%9D%A1%20%E5%B9%BC%E5%85%90,%E3%81%AB%E5%8A%AA%E3%82%81%E3%81%AA%E3%81%91%E3%82%8C%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%82 )
- 文部科学省|学習指導要領「生きる力」(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/you/nerai.htm )
- 一貫連携教育研究所紀要第4号2018年3月|幼保連携型認定こども園 教育・保育要領と「キャリア教育」異年齢交流を通した取組について(https://www.i-repository.net/contents/outemon/ir/506/506180302.pdf )
- 高知県|11-1各発達段階におけるキャリア教育【就学前】(https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/careereducation/file_contents/2013050900273_www_pref_kochi_lg_jp_uploaded_life_69349_215497_misc.pdf )
- 広島県|広島県におけるキャリア教育の充実に向けて(提言) 輝く大人をめざして 夢のスケッチブックづくり(https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/235186.pdf )
- 文部科学省|幼稚園教育要領と保育所保育指針の関係(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/030/shiryo/06022009/005.htm )